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閑話:車椅子の受刑者ダニエル・ロック・ホールの事件:障害者と刑務所制度のはざまで



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こんにちは。第二回の「閑話」コラムをお届けします。


締切から1週間遅れてしまい、事務所の床で反省の気持ちを込めつつ、この原稿を書いています。


 今後はもっと計画的に取り組みます……多分。


さて、今回は少し重めのトピックです。


 ドラマ『プリズン・ブレイク』のような“脱獄もの”が好きな私は、ある日ふと「実際に車椅子の受刑者っていたのだろうか?」という疑問を持ち、調べたところ、非常に示唆に富んだ実例に行き着きました。


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それが、イギリスの**ダニエル・ロック・ホール(Daniel Roque Hall)**さんの事件です。「このままでは、刑務所の中で死ぬしかない」


そう語ったダニエルは、**フリードライヒ運動失調症(Friedreich’s Ataxia)**という進行性の神経疾患を抱えていました。


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 これは日本でも「指定難病」とされ、発症後15〜20年で車椅子生活となることが多く、全身の運動機能に深刻な障害をもたらす病気です。


事件が起きたのは2012年。


 ダニエルは、ペルーからイギリスへ帰国する際に、車椅子の座席部分に高純度のコカイン(約2.8kg)を隠して密輸しようとしたとして、ヒースロー空港で逮捕されました。


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この薬物はイギリスで「Class A(最も重罪)」に分類されるもので、通常であれば4〜9年の実刑判決が科されます。


 しかし、ダニエルは初犯であり、組織的主犯ではなかったこと、そして重度の障害者であることが考慮され、例外的に3年の実刑判決となりました。「刑務所が“罰”を超えて“命の危機”になった」

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しかし、社会に衝撃を与えたのは、収監後の彼の処遇です。


判決時には「刑務所が24時間の医療ケアを提供できる」とされていましたが、実際は食事・排泄・洗面すら自力でできない環境でした。


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 褥瘡(床ずれ)は悪化し、体重は急激に減少。収監直後に心不全を起こし、生命維持装置につながれる緊急事態に陥ります。


この事態に対し、人権団体や母親の必死の訴えが功を奏し、裁判所は「これ以上の収監は人道に反する」と判断。



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 ダニエルは医療機関へ一時移送され、その後、条件付きで釈放されました。なぜセンターポールでこの話題を扱うのか?


一見すると、我々の活動テーマ「スポーツ」や「福祉」とは無関係のように思えるかもしれません。


 しかし、この事件は、私たちが日々目指している「誰も取り残さない社会づくり」に深く関わっています。


ダニエルは、自身の病気や障害、そして将来への絶望感から「人生なんてもうどうでもいい」と感じていたといいます。


 そんな彼に対して、ペルーで麻薬組織が「障害があれば税関の目が緩む。君にもできる仕事だ」と接触してきたのです。


彼は、お金のためではなく、「自分にも役に立てることがある」と思い込み、犯行に及んだと証言しています。社会的孤立が生む「静かな絶望」


私たちは、スポーツを通じて「障害の有無にかかわらず、誰もが自分のままで居られる場づくり」に取り組んでいます。


 もし、彼の周囲にも、そうしたつながり役割を感じられるコミュニティがあったなら――


 もしかすると、ダニエルは犯罪に手を染めることはなかったかもしれません。罰とは何か?社会は誰を守るべきか?


ダニエルの事件は、私たちに問いを投げかけます。


「障害があっても、法を犯せば責任を問うべきだ」


 これは当然の原則です。


しかし――


 刑罰が命を脅かすほど過酷なものであるなら、それは本当に“正義”なのか?


制度と現実のズレが、ひとりの命をすり潰そうとしたこの事件。


 これは、過去の遠い国の話ではなく、今ここで、私たちが見て見ぬふりをしてはいけない社会の“隙間”なのかもしれません。

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